テニスラケットを買った。
9か月前のことである。
ストロークを強化したかった。
ここ5年、PrinceのXシリーズ2本を使ってきた。
黒くて、カッコいいラケット。
とても気に入っている。
不満はない。
けれど、もしかしたら、違うラケットにしたら、もっといい感じになるのではと思ってはいた。
そして、テニスが不調に陥った。
単に、テニスをする時間が減っただけだとは思う。
でも、わたしは何かのせいにしたかったのだ。
練習の機会を増やせば、良かったのだ。
なのに、わたしは道具に逃げた。
ずっと、苦楽を共にしてきた黒いラケットを裏切って、青いやつにしてしまったのだ。
青いやつを買ったとき、わたしは期待していた。
ストロークが強くなるかもしれない。
ボールがもっと気持ちよく飛んでいくかもしれない。
せっかく買ったのだから、そうなってもらわなくては困る。
ところが、そう簡単にはいかなかった。
何か違う。
いや、わたしの打ち方が悪いのかもしれない。
そもそも、ラケットを替えただけでストロークが強くなるなんて、そんな都合のいい話があるだろうか。
それでも、何かを変えれば何とかなるような気がしていた。
次はストリングを替えてみた。
……違う。
じゃあ、今度はこれ。
……うーん。
こうして、青いやつとの関係は、思い描いていたものとはずいぶん違う方向へ進んでいった。
こんなことで、悩むの楽しめない。
誰かのいいたいことは分かる。試し打ちするなりして、買えばよかったじゃん。
ストリングスのことなら、プロに相談すればいいじゃん。
分かるよ、分かる。だけど、そうできないわたしがいたのよ、そこには。
いろいろあるのよ、人の性質として。
あっ、はなしがそれた。
青いやつを振るのが、嫌になった。わたしは、黒ラケットでしかテニスができないのかもしれない。
「もう、黒いラケットに戻す、そして、こんな、こんなラケット捨ててやるぅ」
メルカリで売ったらどうかとアドバイスをくれた人もいたが、わたしをこんなにもイライラさせたラケットで楽しくテニスをしている人を想像もしたくなくて、それもできないと思った。
ラケットバッグから出して、カバーに入れて、隠すように見えなくした。これを買ったことはなかったことにしよう。
黒いラケットをブンブン振り回して、テニスを再開した。
不調がなくなったわけではないが、青いやつを使う不快さはなくなった。
なぜか、まだ何とかなるような気がした。
もう一度だけ、ストリングを替えてみよう。
これが最後のチャンスだ。
これでもダメなら、売り飛ばそう。
誰かにとっては、いいラケットになるかもしれない。
わたしには合わなかったけれど、別の誰かなら、気に入ってくれるかもしれない。
青いやつの良さは分からないが、わたしが好きなのは、黒いラケットと同じような使用感なのだ。
だけど、黒いラケットと同じストリングを張っても、ラケットが違えば、打ち心地も違う。
青いやつでも、黒いラケットと同じような感覚で打てるストリングがあるのではないか。

そして、最後のストリングを試すことになった。
ストロークラリーの練習で使ってみた。
……ん? なんか、いい感じ?
いやいや、まだ分からない。
たまたまかもしれない。
……え? ……このラケットって、こんな感じ?
もしかして、黒いやつよりパワーが出ているんじゃない?
いや、そんなはずは。
いや、でも。ムフフ……。


